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健康保険では、業務外の負傷、疾病等に対して保険診療が受けられます。では、業務上の負傷、疾病等はどうなるのでしょうか。そうです。労災保険から給付が受けられます。しかし、それは労働者の場合のことであって、事業主は労災からは受けられません。そのために労災保険には特別加入制度といって、特別に加入した事業主が労働者と同じように仕事をしていて負傷したならば、労災保険で給付するという制度があります。私の依頼者もこの特別加入をしていましたが、日曜日の夜に一人で生産作業をしている時に負傷してしまいました。このようなケースでは、いくら業務上災害で特別加入していても労災からの給付は受けられません。なぜならば、労働者がいなかったからであり、事業主だから日曜日の夜に一人で作業していたからなのです。労災保険から給付がされなければ、どうなるのか。健康保険では、業務外の負傷となっていますので、給付されないのです。私に依頼が来る前に、いろんなところで相談したそうですが、やはり健康保険も労災保険も使えずに全額自費診療となると言われたようです。
私も最初話を聞いた時は、法の盲点にはまってしまった!と思いました。このケースではどうしようもないと思いましたが、今回もまた仕事がない故にやるだけやってみましょうと安請け合いをしてしまったのです。
そして、最初に考えたことは、国民健康保険による給付です。国民健康保険では、業務上か業務外かを問わず給付されますので、健康保険を全員喪失しようとしました。これは、もちろん違法行為です。違法行為という認識があった訳ですが、依頼者の利益を得たい一心で考えてしまいました。それでも、他に何か知恵はないのだろうかと社労士のメーリングリストで発言したところ、有益なアドバイスを受けることができました。それは、今回のようなケースでは平成9年よりも前は、全額自費負担であったのだが、平成9年からは健康保険法上の業務上の解釈が変更になり、健康保険による給付が受けられるといった場合があるというのです。これは、社会保険審査会の裁決の事例としてあるというものなので、今回も審査請求すれば給付を受けられる見通しであるということです。
そこで、私は審査請求なるものをする覚悟をしました。審査請求というものがどれほどのものかは知りませんが、とにかくその審査請求をすればいいんだと考えました。そして、社会保険事務所で今回の事故について相談しました。当初は、従来どおり全額自費と言われましたが、社会保険審査会の裁決集を示して、最近は健康保険による給付が受けられるはずだと申し立てました。こちらとしては審査請求する用意があることも伝えました。その気迫に圧倒されたのかどうかはわかりませんが、労災保険から給付が受けられなければ健康保険で面倒みましょう、ということになりました。そのかわり、審査請求するのは止めてください、ということなのでしょう。
さて、労災の不支給は、社会保険労務士ならば当然のことなのですが、社会保険事務所では理解のできないことなのです。それを示すのに一番早い方法は何かを考えたところ、労災の支給申請をしてしまえばいいことに気がついたのです。支給申請すれば、不支給ならば不支給決定通知書がでますので、それを社会保険事務所に提出すればよいのです。我ながらグッドアイデアでした。労働基準監督署に対して、早急に不支給決定通知書を出してくださいなどとお願いする社会保険労務士は、私のほかにいないことでしょう。
その後、労災の不支給決定通知書を社会保険事務所に提出したことろ、健康保険による給付が受けられることになりました。依頼者にとって、病院への支払いが2割でよくなったことで数百万円の利益が出ました。さらに、高額療養費といって、63,600円を超えた分を償還払い請求しましたので、結果的に、数百万円が63,600円ですむことになったのです。
事業主さんからは、大層感謝されまして、その会社の顧問をお願いされました。
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