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・事実の概要
X(債権者)は金属鋳造用副資材の製造販売を業とする会社である。Y1Y2(債務者)は過去10年余にわたってXに勤務し、Xの重要秘密技術に関与していた。
Y1Y2は、@雇傭契約存続中、終了後を問わず、業務上知り得た秘密を他に漏洩しないこと、A雇傭契約終了後満2年間Xと競業関係にある一切の企業に直接にも、間接にも関係しないこと、を内容とする特約を締結していた。また、XはY1Y2に対し機密保持手当を支給していた。
ところがY1Y2はXから相次いで任意退職し、その後まもなくしてXと業務内容が同じであるA社が設立されると同時に、同社の取締役に就任した。Aの製品はすべてXの製品と対応し、現実にXの得意先に対しXと同様の営業品目の製造販売を行っていた。そこで、Xは、前記特約上の権利を被保全権利としてY1Y2に対しAの製品の製造販売業務に従事してはならない旨の仮処分を求めたのが本件である。
・判旨
請求認容
「競業禁止の特約は経済的弱者である被用者から生計の道を奪い、その生存をおびやかす虞れがあると同時に被用者の職業選択の自由を制限し、又競争の制限による不当な独占の発生する虞れ等を伴うからその特約締結につき合理的な事情の存在することの立証が無いときは一応営業の自由に対する干渉とみなされ、特にその特約が単に競争者に排除、抑制を目的とする場合には、公序良俗に反し無効であることは明らかである。従って被用者は、雇用中、様々の経験により、多くの知識・技能を修得することがあるが、これらが当時の同一業種の営業において普遍的なものである場合、即ち、被用者が他の使用者のもとにあっても同様に修得できるであろう一般的知識・技能を獲得したにとどまる場合には、それらは被用者の一種の主観的財産を構成するのであってそのような知識・技能は被用者は雇用終了後大いにこれを活用して差しつかえなく、これを禁ずることは単純な競争の制限に他ならず被用者の職業選択の自由を不当に制限するものであって公序良俗に反するというべきである。しかしながら、当該使用者のみが有する特殊な知識は使用者にとり一種の客観的財産である、他人に譲渡しうる価値を有する点において右に述べた一般的知識・技能と全く性質を異にするものであり、これらはいわゆる営業上の秘密として営業の自由とならんで共に保護されるべき法益というべく、そのため一定の範囲において被用者の競業を禁ずる特約を結ぶことは十分合理性があるものと言うべきである。このような営業上の秘密としては、顧客等の人的関係、製品製造上の材料、製法等に関する技術的秘密が考えられ、……右のような技術的秘密を保護するために当該使用者の営業上の秘密を知り得る立場にある者……に秘密保持義務を負わせ、又右秘密保持義務を実質的に担保するために退職後における一定期間、競業避止義務を負わせることは適法・有効と解するのを相当とする。」
「競業の制限が合理的範囲を超え、Yらの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、Xの利益(企業秘密の保護)、Yの不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中の虞れ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点に立って慎重に検討していくことを要するところ、本件契約は制限期間は2年間という比較的短期間であり、制限の対象職種はXの営業目的である金属鋳造用副資材の製造販売と競業関係にある企業というのであって、……制限の対象は比較的狭いこと、場所的には無制限であるが、これはXの営業の秘密が技術的秘密である以上やむをえないと考えられ、退職後の制限に対する代償は支給されていないが、在職中、機密保持手当」が支給されており、これらの事情を総合すると、「本件契約の競業の制限は合理的な範囲を超えているとは言い難く、」「本件契約はいまだ無効と言うことはできない」。
※ひとりごと
憲法に職業選択の自由が規定されているので、労働者側はそれを盾に取ってくることは当然である。しかし、本件のように技術的秘密を掴んでいる者が、他企業の取締役に就任し、これまでの得意先に対して営業するということは、明らかに悪意である。しかも、秘密保持手当をいう金銭的な代償を貰っておきながら、このような行為に及んだことは、たたとえ憲法において職業選択の自由が規定されているとはいえ、許されないものと考える。本件は、秘密保持手当を貰っていたので、そのような重要な企業秘密であるとは思っていなかったなどという言い逃れができないものと考えるが、多くのケースは企業側は企業秘密と言っても労働者側は企業秘密とは思っていなかった、むしろ、再就職する際に自分を売り込むためにこれまでの知識を有効活用したいと考えるのは当然である。競業避止義務を負わせるには、はっきりと企業秘密となる範囲を明確にし、金銭的な代償を支払い、雇用契約において特約条項をつけるべきである。さらに、2年間という年数で制限するか、地域的な制限(例えば、同一県内)をつけるかに留めておかないと企業側は勝てないのではないかと思っている。(by Hideyuki Iwase)
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