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・事実の概要
原告X(女性)は、昭和60年に被告会社(以下、Y2社)に採用され、編集長Y1(男性)のもとで学生向けの情報雑誌の作成等に従事していたが、次第に中心的な役割を担うようになった。そんな折、Y1が入院し、そのために出向してきたA係長とXとの間で業務が進められることが多くなり、Y1はそのことにより疎外感を持ったり、会社の業績不振の責任を問われたりして、Y2社を辞めようと悩むようになった。そして、Y1はY2社内外の関係者らにXの異性関係等の個人的性生活についてXの評価を下落させるような発言をしたり、噂を流布するようになった。
昭和62年に経営建て直しのため、事実上の最高責任者としてB専務が入社したため、A係長は出向元に戻り、Y2社の運営はB専務とY1を中心に行われるようになった。しばらくし、Y1がXに転職を勧めたことから両者の関係が悪化し、Y2社の業務に支障を来たすようになった。さらに、昭和63年、Y1はXの異性関係がY2社にとってマイナスイメージだからと退職を求めた。そのような事態を踏まえ、B専務を含む役員らが、場合によってはXとY1のいずれかに退職してもらうほか手段がないとの結論になった。そして、双方の話を聞くため、まずXを呼びY1との話合いがつかなければ退職してもらう旨を話したところ、Xは退職の意思を表明した。次いで、Y1に対してはXが退職する意思のあることを告げ、3日間の自宅謹慎を命じたに留めた。
そこで、XはY1の行為はセクシュアル・ハラスメントに該当する違法な行為として以下の請求をした。
・Y1には、民法709条に基づく損害賠償
・Y2社には、Y1の行為はY2社の業務の執行につき行われたものであるとして民法715条に基づく損害賠償として慰謝料300万円及び弁護士費用67万円。
・判旨
一部認容
1 被告Y1の不法行為責任について
@職場の内外において職務に関連する場において「X又は職場の関係者に対し、Xの個人的な性生活や性向を窺わせる事項について発言を行い、その結果、Xを職場に居づらくさせる状況を作り出し、しかも、右状況の出現について意図していたか、又は少なくとも予見していた場合には、それは、Xの人格を損なってもその感情を害し、Xにとって働きやすい職場環境の中で働き利益を害するものである。」
A「現代社会の中における働く女性の地位や職場管理層を占める男性の間での女性観等に鑑みれば、本件においては、Xの異性関係を中心とした私生活に関する非難等が対立関係の解決や相手方放逐の手段ないしは方途として用いられたことに、その不法行為性を認めざるを得ない。」Y1はXに対して一連の行為に対する民法709条の不法行為を負う。
2 被告Y2社の責任について
@Y1の行為についての使用者責任
Y1のXに対する「一連の行為は、Y2社の『事業の執行につき』行われたものと認められ、Y2社はY1の使用者として不法行為責任を負う」。
AB専務らの行為についての使用者責任
使用者は、「労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来たす事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務もあると解されるところ、被用者を選任監督する立場にある者が右注意義務を怠った場合には、右の立場にある者に被用者に対する不法行為が成立することがあり、使用者も民法715条により不法行為責任を負うことがある」。
B専務及びY2社代表者は、XとY1の間の確執の存在を十分に認識し、これが職場環境に悪影響を及ぼしていることを熟知していながら、「問題を専らXとY1との個人的な対立と見て、両者の話合いを促すことを対処の中心とし……B専務の処理の経過や結果から見るとき、同専務らはXの退職を持ってよしとし、これによって問題の解決を図る心情を持ってことの処理に臨んだものと推察されてもやむを得ないものと思われる」。「B専務らは、XとY1との関係悪化が現れた早期の段階から、主としてY1を通じて事情を認識しており、その行為については、Y1の行為との関連性も認められる。」「以上のとおり、B専務らの行為についても、職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り、また、憲法や関係法令上雇用関係において男女を平等に取り扱うべきであるにもかかわらず、主として女性であるXの譲歩、犠牲において職場関係を調整しようとした点において不法行為性が認められる」から、Y2社は、上記の不法行為についても、使用者責任を負う。
3 原告Xの受けた損害
「Xは生きがいを感じて打ち込んでいた職場を失い、その被侵害利益は「女性としての尊厳や性的平等につながる人格権に関わるものであることなどに鑑みると、その違法性の程度は軽視し得るものではなく、XがYらの行為により被った精神的苦痛は相当なものであったと窺われる」が、Xの対応や姿勢がY1との対立を激化させた点等を考慮して、精神的苦痛に対する慰謝料として請求額の半額の150万円および弁護士費用15万円を認容した。
※ひとりごと
まずは、請求根拠となった法令条文を確認しておくことにする。
民法709条:故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ず。
民法715条:ある事業のために他人を使用する者は被用者がその事業の執行につき第三者に加えたる損害を賠償する責に任ず。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督につき相当の注意を為したるとき又は相当の注意を為すも損害が生ずべかりし時はこの限りにあらず。
本件の場合、Y1がXに対してした行為は、故意というわけであろう。それはよしとして、Y2社の使用者責任として、はじめにXに対してY1と話しがつかなければ退職してもらうとしたこと自体よくないことだろう。反対に、Y1に対しては3日間の自宅謹慎で終わってしまったこともなおさらである。本件に関して言えば、使用者責任を問われても仕方ないと思うが、ではどの程度のことをすれば使用者責任を問われずに済むのかが知りたいところである。(by Hideyuki Iwase)
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