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・事実の概要
X(原告・控訴人・上告人)は昭和55年11月、Y会社(被告・被控訴人・被上告人)が公共職業安定所を通して行った中卒者または高卒者を対象とするプレス工等の募集に応募し、その際Xは、高校卒、「賞罰なし」等を記載した履歴書を提出し、またY会社の面接を受け、同月11日に採用された。Xは昭和47年福岡大学に入学し同年52年に除籍中退しており、また採用当時は、同52年から同53年にかけて成田空港反対闘争に参加した際問われた公務執行妨害罪等について公判継続中であった。この刑事事件は、昭和56年7月、同61年1月にいずれも有罪判決(懲役2年・執行猶予5年間と懲役1年6月・執行猶予4年間)となり、そのころ確定した。Xは、昭和58年3月ビラ配布が軽犯罪法違反として逮捕されたため欠勤した。また同61年3月、集会・デモ行進参加の際公務執行妨害罪で逮捕・勾留され(不起訴)9日間欠勤し、翌日出勤した際、これら逮捕に関する釈明のビラを無断で始業時間前、Y会社内で作業員に配布した。
Y会社は、@逮捕・勾留による9日間の欠勤A大学中退であること、および2度の逮捕・勾留・起訴とそれらが公判継続中であることを採用時に秘匿B前記2件の刑事事件に関して懲役刑に処せられたことC会社構内での無許可ビラ配布、これらがそれぞれ就業規則の懲戒解雇事由に該当するとしてXを懲戒解雇した(ただし、上記Bに関する懲戒解雇の根拠は、裁判過程ではじめて主張された)。これに対してXは、雇用契約上の地位確認等を求めて本訴に及んだ。第1審及び第2審は、上記懲戒解雇事由のうちAとBについて認容して、懲戒解雇を有効とした。Xはこれを不服として上告した。
・判旨
上告棄却
「原審の適法に確定した事実関係の下において、本件解雇を有効とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。原審は、Xが2回にわたり懲役刑を受けたこと及び雇入れられる際に学歴を偽ったことがY会社就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとした上、Xのその他の言動を情状として考慮し、本件解雇が解雇権の濫用に当たらない旨を判示している」。
原審の判旨
1 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者、使用者相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるから、使用者が雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う。本件就業規則も、これを前提とするものと解される。そして、最終学歴は、本件の事情の下では、単にXの労働力評価に関わるだけではなく、Y会社の企業秩序の維持にも関係する事項であるから、Xはこれについての真実を申告すべき義務を有していた。
2 雇用しようとする労働者が刑事裁判の公判継続中であって保釈中である場合には、保釈が取り消され、あるいは実刑判決を受けて収監されるなどのため勤務することができなくなる蓋然性の有無、公判に出頭することによって欠勤等の影響が生ずるか否か等を判断することは、当該労働者の労働力を評価し,雇用するか否かを決する上で重要な要素となる。しかし、履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうべきものと解すべきであって、いまだ判決が言い渡されていないXが採用面接に際し、賞罰がないと答えたことは事実に反するものではなく、また採用面接にあたり具体的質問を受けなかった中で、Xが自ら公判継続の事実について積極的に申告すべき義務があったということも相当とはいえない。したがって、大学中退の学歴を秘匿して雇用されたことは懲戒事由の「……経歴をいつわり……雇い入れられたとき」に当たるが、公判継続中であることを告げなかったことはこれに該当しない。
3 Xには、有罪判決を受けた後も成田空港反対闘争に参加するなど自己の行動に対する反省の態度は見受けられず、自己の主張が正しく、既成の社会秩序を否定する考えが強く、これらの事情を考慮すると、Xの社内の地位や職務内容を斟酌しても懲戒解雇は相当であり、解雇権濫用には当たらない。
※ひとりごと
またしても解雇権濫用かと思い読み進めていったら、本件は解雇権濫用に当たらないことがわかり、経営者にとっては納得のいく判決であると思う。学歴については、通常は高く偽ることが多いが、低く偽ることも懲戒事由に該当することは周知のことであると思っている。しかし、賞罰なしについて、公判継続中であり確定したわけではないから「賞罰はない」と答えてもかまわないというのは、違和感を覚える。確かに、有罪判決を言い渡されたわけではないので、仕方ないと思うのだが。そうなると、面接時に「逮捕・勾留・起訴されたことはありますか?」と質問する必要があるということか。いずれにせよ、本件において本人が逮捕・勾留・起訴されても反省の色がないのはいただけない。(Hideyuki Iwase)
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