労働判例の部屋・解雇、退職勧奨に関する判例
  サイトマップ
トップページ > 労働判例 > 解雇、退職勧奨  

解雇、退職勧奨に関する判例をご紹介します。


整理解雇(東洋酸素事件) 整理解雇(ナショナル・ウェストミンスター銀行事件)
解雇権の濫用 私生活上の非行
予告を欠く解雇
処分後に判明した非違行為の処分理由への追加 変更解約告知
      

 

■整理解雇(東洋酸素事件、東京高裁、S54.10.29)

・事実の概要

 Y社は、酸素、アルゴン、窒素等の製造販売を営む会社であり、Xら13名は、Y社のアセチレン部門で働く従業員である。アセチレン部門は、業者間競争の激化、需要の低迷、人件費の高騰等によって赤字に転落し、昭和44年下期に総額44億円の累積赤字を計上した。そこで、Y社は、アセチレン部門の閉鎖を決定し、昭和45年7月24日付で、就業規則上の「やむを得ない事業の都合によるとき」との規定に基づき、Xらを含む同部門の従業員全員を解雇する旨の意思表示を行った。その際、Y社は他部門への配転や希望退職措置をとらなかった。Xらが地位保全仮処分等を申請したのに対し、原審は解雇回避措置が不十分である等として解雇無効と判断したため、Y社が控訴。

・判旨

原判決取消Xらの申請却下

1 整理解雇の要件   
 企業による特定の事業部門の閉鎖は、その専権に属する自由であるが、終身雇用制を原則とするわが国の労働関係においては、解雇は労働者の生活に深刻な影響を及ぼすから「企業運営上の必要性を理由とする使用者の解雇の自由も一定の制約を受けることを免れない」。
 解雇が「やむを得ない事業の都合による」ものといえるためには、第1に事業部門の閉鎖が「企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものと認められる場合であること」、第2に閉鎖部門の従業員を「同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは右配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合」であって、解雇が使用者の恣意によってなされるものではないこと、以上の3個の要件を充足することを要し、特段の事情がない限り、それをもって足りる」。なお、解雇が手続上信義側に反した時は解雇権濫用となるが、これは解雇の効力の発生を妨げる事由であり、「解雇事由の有無の判断に当たり考慮すべき要素とはならない」。
 以上の要件を超えて、人員整理をしなければ企業の存続が不可能となることが明らかな場合には初めて解雇が許されるという考え方は、資本主義経済社会における現在の法制の下では認められない。

2 具体的判断
 @アセチレン部門の業績改善は困難であり、会社経営に深刻な影響を及ぼす恐れがあることが明らかであるから、同部門の閉鎖は「企業の運営上やむを得ない必要があり、かつ合理的な措置であった」こと
 AXらの職種は現業職またはそれに類似する特務職であるから、配転先の職種もこれらに限定されるところ、他部門におけるこれら職種は過員であり、Xらの配転先確保のための他部門における希望退職者募集についても、Y社は全社的は募集が熟練従業員等の引き抜きを誘発することを恐れていたこと等を考慮すると、希望退職者を募集すべきであったともいえないこと
 Bアセチレン部門は独立事業部門であり、管理職以外の47名全員を解雇対象としたことは、一定の客観的基準に基づく選定であったといえることから、本件解雇は「やむを得ない事業の都合による」ものといえる。
 CY社には労組との事前協議条項はなく、Y社は従業員にアセチレン部門の存廃が早晩問題となることを知らせていた等の本件事情の下では、Y社が労組と十分な協議を尽くさないまま部門閉鎖と解雇を実行したとしても、直ちに労使間の信義側に反するとはいえない。

※ひとりごと

 整理解雇といえばその前提条件として、配置転換を検討したか、希望退職者を募集したかどうかの手続が必要だと思っていたが、このような措置を取らなくてもよい場合があるということは初めて知った。本件の事実の概要を見た限りは、解雇権濫用に当たると決め付けていたが間違いだった。
 本件は、職種が特殊な部門であり、配置転換や希望退職者の募集をしなくても合法となったわけであるが、間違えてはならないのは本件の場合、このような措置を取らなかったことに対して合理的な理由があったからである。
 それにしても、意外なほど整理解雇が認められた判決だと感じている。(by Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

■整理解雇(ナショナル・ウェストミンスター銀行事件、東京地裁、H12.1.21)

・事実の概要

 X(債権者)は、外資系のY銀行(債務者)のグローバル・トレード・バンキング・サービス(GTBS)アジア・パシフィック部門でアシスタント・マネージャーとして貿易金融業務に従事していた者である。Y銀行が属する金融グループは、国際競争の激化に伴い、平成9年3月、貿易金融業務から撤退し、上記部門を閉鎖することを決定した。Y銀行は同年4月、Xに対して、再就職活動の援助や特別退職手当等の条件を提示して雇用契約の合意解約を申し入れたが、Xはこれを拒否した。Y銀行はその後も、Xが所属する労組との間で団体交渉を行い、関連会社において賃金の大幅な減額を伴う一般事務職(クラーク)のポジションを提案したが、Xはこれも拒否したため、Y銀行は同年9月1日、同月末日付でXを解雇する旨の意思表示を行った。これに対してXが地位保全等の仮処分を申し立てた。1次処分及び2次処分は、ともにこの申立てを認容した。

・決定要旨

却下

1 整理解雇の要件
 整理解雇の4要件は、整理解雇の範疇に属すると考えられる解雇について解雇権の濫用に当たるかどうかを判断する際の考慮要素を類型化したものであって、各々の要件が存在しなければ法律効果が発生しないという意味での法律要件ではなく、解雇権濫用の判断は、本来事案ごとの個別具体的な事情を総合考慮して行うほかないものである」。
 GTBS部門の閉鎖は、Y銀行のリストラクチャリングの一環を成すものであり、このような事業戦略上経営判断については、企業の決定を尊重すべきであって、余剰人員の削減も、経営が危機的状況に陥っているかどうかにかかわらず必然的といえるが、他方、解雇が労働者の生活の維持に重大な支障を来たし、再就職にも相当な困難が伴うことを考えると、企業は「余剰人員を他の分野で活用することが企業経営上合理的であると考えられる限り極力雇用の維持を図るべき」で、他の分野で活用できないなど「雇用契約を解消することについて合理的な理由があると認められる場合であっても、当該労働者の当面の生活維持及び再就職の便宜のために、相応の配慮を行うと共に、当該労働者の納得を得るための説明を行うなど、誠意を持った対応をすることが求められる」。

2 具体的判断
 @GTBS部門の閉鎖に伴い、Xの賃金水準を維持したまま雇用を継続するためには、サポート部門における他の管理職ポジションへの配転が必要であったが、解雇当時にはそのようなポジションはなく、将来生じうるポジションへの配転についても、Xが培ってきた経験とは異なる新たな専門的知識、能力が必要となるため、その可能性がないこと等から、Y銀行が「Xとの雇用関係を継続することは、現実的には不可能であった」こと
 AY銀行は、本件雇用契約の申し入れに際して、計2670万円余の特別退職金の支給や再就職までの就職あっせん会社のサービスを約束しており、「Xの当面の生活維持及び再就職の便宜のために相応の配慮をした」こと
 B関連会社におけるクラークのポジションの提案についても、賃金額自体は相当であり、Y銀行は賃金減少分の補助の提案もしていること
 CY銀行は、X及び組合との間で全7回、3ヶ月余にわたる団交を行っており、「でき得る限り誠意をもってXに対応したものといえる」ことから、本件解雇は未だ「解雇権の濫用であるとはいえ」ない

※ひとりごと

 本件において、Y銀行は特別退職金の支給や再就職あっせん会社のサービスまで用意していることに加えて、3ヶ月間で7回も団体交渉をもっており、誠意は感じられる(退職金については、規定の3倍の金額を提示しているし、再就職あっせんサービスは無期限で行うことを提示した。)。また、大幅な賃下げが伴うとはいえ一般事務職への異動も拒否しており、ここまでくるとXのわがままとしか思えない。もし、本件の場合でXの主張が認められるのであれば、不採算部門の閉鎖が全くできなくなってしまう。不採算部門の閉鎖は経営判断として必要な決断であり、それに伴う解雇は(権利の濫用がなければ)認められてしかるべきだと考える。(by Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

■解雇権の濫用(高知放送事件、最高裁、S52.1.31)

・事実の概要

 Y会社(被告・控訴人・上告人)は、テレビ・ラジオの放送事業者であり、X(原告・被控訴人・被上告人)はY会社のアナウンサーであった。Xは、昭和42年2月22日から23日かけて、訴外Aと宿直勤務に従事したが、寝過ごしたため、午前6時から10分間放送されるべき定時ラジオニュースを放送することができなかった(第1事故)。また、同年3月7日から8日にかけて、訴外Bと宿直勤務に従事したが、寝過ごしたため、8日午前6時からの定時ラジオニュースを約5分間放送できなかった(第2事故)。この本件第2事故については、上司に事故報告をしておらず、1週間後にこれを知った訴外C部長から事故報告書の提出を求められ、事実と異なる事故報告書を提出した。

 Y会社は、以上Xの行為は就業規則所定の懲戒事由に該当するので懲戒解雇とすべきところ、再就職など将来を考慮して普通解雇として処分した。なお、Y会社の就業規則(15条)には、普通解雇事由として@精神または身体の障害により業務に耐えられないとき(1号)、A天災事変その他已むをえない事由のため事業の継続が不可能となったとき(2号)、Bその他、前各号に準ずる程度の已むをえない事由があるとき(3号)、があげられていた。

 Xは、この解雇処分に対して、これが無効であるとして従業員としての地位の確認を求めて訴えたのが本件である。第1審、第2審ともにXの請求を認容した。

・判旨

上告棄却

1 Xの行為は、就業規則15条3号所定の普通解雇事由に該当する。「しかしながら、普通解雇事由がある場合においても、使用者は常に解雇しうるものではなく、当該具体的な事情のもとにおいて、解雇に処することが著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないときには、当該解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効になるものというべきである。」

2 「本件においては、Xの起こした第1事故、第2事故は、定時放送を使命とするY会社の対外的信用を著しく失墜するものであり、また、Xが寝過ごしという同一態様に基づき特に2週間以内に2度も同様の事故を起こしたことは、アナウンサーとしての責任感に欠け、更に第2事故直後においては率直に自己の非を認めなかった等の点を考慮すると、Xに非がないということはできないが、他面、……本件直後は、いずれもXの寝過ごしという過失行為によって発生したものであって、悪意ないし故意によるものではなく、また、通常は、ファックス担当者が先に起き、アナウンサーを起こすことになっていたところ、本件第1事故、第2事故ともファックス担当者においても寝過ごし、定時にXを起こしてニュース原稿を手交しなかったのであり、事故発生につきXのみを責めるのは酷であること、Xは、第1事故については直ちに謝罪し、第2事故については起床後一刻も早くスタジオ入りすべく努力したこと、第1、第2事故とも寝過ごしによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえないこと、Y会社において早朝のニュース放送の万全を期すべき何らの措置も講じていなかったこと、事実と異なる報告書を提出した点についても、1階通路ドアの開閉状況にXの誤解があり、また短期間内に2度の放送事故を起こし気後れしていたことを考えると、右の点を強く責めることはできないこと、Xはこれまで放送事故歴がなく、平素の勤務成績も別段悪くないこと、第2事故のファックス担当者訴外Aはけん責処分に処せられたにすぎないこと、Y会社においては従前放送事故を理由に解雇された事例はなかったこと、第2事故についても結局は自己の非を認めて謝罪の意を表明していること、等の事実があるというものであって、右のような事情のもとにおいて、Xに対して解雇をもってのぞむことは、いささか過酷にすぎ、合理性を欠くうらみなしとせず、必ずしも社会的に相当なものとして是認することはできないと考えられる余地がある。従って、本件解雇の意思表示を解雇権の濫用として無効とした原審の判断は、結局、正当と認められる。」

※ひとりごと

 放送事業者にとって放送の空白時間を作ってしまった、しかもアナウンサーの寝坊によるものが2回も。まさに、許しがたい行為であると私は思う。本件に関しては、Y会社の肩を持ちたくなる。しかし、裁判所の判断は解雇権濫用というものだ。こうなってくると、どこまでも解雇はできないものと思えて仕方がない。雇入れた以上、雇用に関する事業主責任を全うするならば、その前提として採用段階でもっと厳しく合否判断する必要がある。雇ってしまったら、労働者に伝家の宝刀といえる「解雇権濫用」を与えること肝に銘じておく必要がある。(by Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

■私生活上の非行(横浜ゴム事件、最高裁、S45.7.28)

・事実の概要

 X(原告・被控訴人・被上告人)は、Y会社(被告・控訴人・上告人)タイヤ工場製造課の作業員である。昭和40年8月1日午後11時20分頃、Xは飲酒した上で、他人の居宅の風呂場を押し開け、屋外に履き物を脱ぎ揃えてから同所から屋内に忍び入ったが、家の者に誰何されたため直ちに屋外に立ち出で、履き物を捨てて一目散に逃走したが、まもなく私人に捕まり警察に引き渡された。Xは住居侵入罪に問われ、罰金2500円に処せられた。その後数日を経ないうちに、Xの犯行および逮捕の事実が噂として広まり、工場近辺の住民およびY従業員の相当数の者が当該事実を知ることとなった。Yは、賞罰規則所定の「不正不義の行為を犯し、会社の対面を著しく汚した者」に該当するとして、同年9月17日にXを懲戒解雇した。XはYに対して雇用契約上の地位確認を求めて訴訟を提起した。1審および2審ともにXの請求を認容した。これに対してYが上告した。

・判旨

上告棄却

 「右犯行の時刻その他原判示の態様によれば、それは、恥ずべき性質の事柄であって、当時Yにおいて、企業運営の刷新を図るため、従業員に対し、職場諸規則の厳守、信賞必罰の趣旨を強調していた際であるにもかかわらず、かような犯行が行われ、Xの逮捕の事実が数日を出ないうちに噂となって広まったことをあわせ考えると、Yが、Xの責任を軽視することができないとして懲戒解雇の措置に出たことに、無理からぬ点がないではない。しかし、翻って、右賞罰規則の規定の趣旨とするところに照らして考えるに、問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、YにおけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、Xの右行為が、Yの対面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというほかはない。」

※ひとりごと

 会社内における事件と私生活上の事件とは、懲戒におけるその重みに差が大きいことがよくわかる。本件において、犯罪の軽重を問題にしたのではなく、噂があまりに広まってしまったために懲戒解雇に及んだと思われるが、会社の対面をどの程度汚してしまったのかという点でははなはだ疑問があり(おそらくそんなん汚していないのだろう)、懲戒解雇までは酷過ぎるということである。会社経営者としては、少しでも会社のイメージをよくしようといろんな策を打っても、従業員にこのようなことをやられると精神的なダメージが大きいことだろう。(Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

■経歴詐称(炭研精工事件、最高裁、H3.9.19)

・事実の概要

 X(原告・控訴人・上告人)は昭和55年11月、Y会社(被告・被控訴人・被上告人)が公共職業安定所を通して行った中卒者または高卒者を対象とするプレス工等の募集に応募し、その際Xは、高校卒、「賞罰なし」等を記載した履歴書を提出し、またY会社の面接を受け、同月11日に採用された。Xは昭和47年福岡大学に入学し同年52年に除籍中退しており、また採用当時は、同52年から同53年にかけて成田空港反対闘争に参加した際問われた公務執行妨害罪等について公判継続中であった。この刑事事件は、昭和56年7月、同61年1月にいずれも有罪判決(懲役2年・執行猶予5年間と懲役1年6月・執行猶予4年間)となり、そのころ確定した。Xは、昭和58年3月ビラ配布が軽犯罪法違反として逮捕されたため欠勤した。また同61年3月、集会・デモ行進参加の際公務執行妨害罪で逮捕・勾留され(不起訴)9日間欠勤し、翌日出勤した際、これら逮捕に関する釈明のビラを無断で始業時間前、Y会社内で作業員に配布した。

 Y会社は、@逮捕・勾留による9日間の欠勤A大学中退であること、および2度の逮捕・勾留・起訴とそれらが公判継続中であることを採用時に秘匿B前記2件の刑事事件に関して懲役刑に処せられたことC会社構内での無許可ビラ配布、これらがそれぞれ就業規則の懲戒解雇事由に該当するとしてXを懲戒解雇した(ただし、上記Bに関する懲戒解雇の根拠は、裁判過程ではじめて主張された)。これに対してXは、雇用契約上の地位確認等を求めて本訴に及んだ。第1審及び第2審は、上記懲戒解雇事由のうちAとBについて認容して、懲戒解雇を有効とした。Xはこれを不服として上告した。

・判旨

上告棄却

 「原審の適法に確定した事実関係の下において、本件解雇を有効とした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。原審は、Xが2回にわたり懲役刑を受けたこと及び雇入れられる際に学歴を偽ったことがY会社就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するとした上、Xのその他の言動を情状として考慮し、本件解雇が解雇権の濫用に当たらない旨を判示している」。

原審の判旨

1 雇用関係は、労働力の給付を中核としながらも、労働者、使用者相互の信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であるから、使用者が雇用契約の締結に先立ち、雇用しようとする労働者に対し、その労働力評価に直接関わる事項ばかりでなく、当該企業あるいは職場への適応性、貢献意欲、企業の信用の保持等企業秩序の維持に関係する事項についても必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合には、労働者は、信義則上、真実を告知すべき義務を負う。本件就業規則も、これを前提とするものと解される。そして、最終学歴は、本件の事情の下では、単にXの労働力評価に関わるだけではなく、Y会社の企業秩序の維持にも関係する事項であるから、Xはこれについての真実を申告すべき義務を有していた。

2 雇用しようとする労働者が刑事裁判の公判継続中であって保釈中である場合には、保釈が取り消され、あるいは実刑判決を受けて収監されるなどのため勤務することができなくなる蓋然性の有無、公判に出頭することによって欠勤等の影響が生ずるか否か等を判断することは、当該労働者の労働力を評価し,雇用するか否かを決する上で重要な要素となる。しかし、履歴書の賞罰欄にいわゆる罰とは、一般的には確定した有罪判決をいうべきものと解すべきであって、いまだ判決が言い渡されていないXが採用面接に際し、賞罰がないと答えたことは事実に反するものではなく、また採用面接にあたり具体的質問を受けなかった中で、Xが自ら公判継続の事実について積極的に申告すべき義務があったということも相当とはいえない。したがって、大学中退の学歴を秘匿して雇用されたことは懲戒事由の「……経歴をいつわり……雇い入れられたとき」に当たるが、公判継続中であることを告げなかったことはこれに該当しない。

3 Xには、有罪判決を受けた後も成田空港反対闘争に参加するなど自己の行動に対する反省の態度は見受けられず、自己の主張が正しく、既成の社会秩序を否定する考えが強く、これらの事情を考慮すると、Xの社内の地位や職務内容を斟酌しても懲戒解雇は相当であり、解雇権濫用には当たらない。

※ひとりごと

 またしても解雇権濫用かと思い読み進めていったら、本件は解雇権濫用に当たらないことがわかり、経営者にとっては納得のいく判決であると思う。学歴については、通常は高く偽ることが多いが、低く偽ることも懲戒事由に該当することは周知のことであると思っている。しかし、賞罰なしについて、公判継続中であり確定したわけではないから「賞罰はない」と答えてもかまわないというのは、違和感を覚える。確かに、有罪判決を言い渡されたわけではないので、仕方ないと思うのだが。そうなると、面接時に「逮捕・勾留・起訴されたことはありますか?」と質問する必要があるということか。いずれにせよ、本件において本人が逮捕・勾留・起訴されても反省の色がないのはいただけない。(Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

■予告を欠く解雇(細谷服装事件、最高裁、S35.3.11)

・事実の概要

  X(原告・控訴人・上告人)は、洋服の製作修理を業とするY会社(被告・被控訴人・被上告人)に、賃金1か月金1万円で雇われていたが、Y会社は、Xに対して昭和24年8月4日、予告手当を支給することなしに一方的に解雇の通告をした。Xは、昭和25年3月、未払給料及び予告手当支払請求の訴えを横浜地裁に提起した。同第1審の口頭弁論終結日である昭和26年3月19日に至り、Y会社は遡って昭和24年8月分の給料(Y会社就業規則は、月給を支給される従業員が月の中途で退職する場合、その月の給料全額を支払う旨定めている)と給料1か月分に相当する予告手当および当日までの遅延利益を加算した合計金2万630円をXに支払ったが、Xは、かかる即時解雇は無効であり、昭和26年3月19日までは引き続きY会社の従業員たる地位を有しているとしてその間の給料ならびに労働基準法114条に基づき30日の平均賃金と同額の附加金の支払を請求した。これに対してY会社は、未払給料や予告手当を支払ったものであるから、附加金請求権はもちろん、雇用に起因する一切の債務はもはや存在しないと主張した。原審たる東京高裁昭和29年10月30日判決(労民集6巻1号95貢)は「その解雇通告の本旨が、使用者において即時であると否とを問わず要するにその労働者を解雇しようとするにあって即時の解雇が認められない以上解雇する意思がないというのでない限り、右解雇通知はその後同条〔労基20条〕所定30日の期間経過を俟ってその効力を生ずるに至るものと解するを相当」とするから、本件解雇の通告は昭和24年9月3日に効力を生じており、また附加金については、予告手当相当額の支払によりY会社の義務違背の状態が消滅している以上附加金の支払を命ずるべき要件がなくなったものとして、Xの控訴を棄却した。X上告。

・判旨

上告棄却

1 「使用者が労働基準法20条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後同条所定の30日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであって、本件解雇の通知は30日の期間経過と共に解雇の効力を生ずるものとする原判決の判断は正当である。」

2 「労働基準法114条の附加金支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に、当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命ずることによって、初めて発生するものと解すべきであるから、使用者に労働基準法20条の違反があっても、既に予告手当に相当する金額の支払を完了し使用者の業務違反の状況が消滅した後においては、労働者は同条による附加金請求の申立をすることができないものと解すべきである。」

※ひとりごと

 本件は、附加金の請求についてであるから、まずは労働基準法第114条の条文を確認することにする。

裁判所は、第20条(解雇予告)、第26条(休業手当)若しくは第37条(割増賃金)の規定に違反した使用者又は第39条第6項(年次有給休暇)の規定による賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の附加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあった時から2年以内にしなければならない。
 
 本件で問題にしているのは、労働者としての地位確認による給与の請求と解雇予告手当と同額の附加金の請求であるが、解雇された者の心境を表している事件と言えよう。というのは、解雇された者にとって、本心から復職したいのではなく、あくまでも金銭が要求である。そのために、いろんな理由をつけて請求するのだが、本件においては解雇の通知を争っているわけではないので、解雇予告手当を即時に払っていないとかが問題ではなく30日経過後に解雇は成立することになる。経営者にとっては、支払うべきものはきちんと支払わないと余計は費用がかかってしまうことだけは肝に命じておいてもらいたい。(by Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

]
■処分後に判明した非違行為の処分理由への追加(山口観光事件、最高裁、H8.9.26)

・事実の概要

(1)X原告・被控訴人・被上告人)は、Y(被告・控訴人・上告人)が経営する遊戯施設においてマッサージ業務に従事していたが、休日であった平成5年8月31日に電話で翌日から2日間休みたいとYに申し入れたところ、Y代表者から「勝手に休まれては困る。お前みたいな者は、もう必要がないから辞めてくれ。明日から来なくてもよい」といわれた。同年10月1日、XはYに対して原職復帰を求めたがこれも拒否された。これに対してXは地位保全等仮処分を裁判所に申し立てたが、Yは、平成6年4月11日、上記仮処分申請に対する答弁書において、平成5年8月31日付解雇が無効な場合は、Xが採用時に提出していた履歴書に虚偽の事実が記載されていること(採用当時57歳であったが、45歳であるかのように生年月日を偽って記載)を理由に懲役解雇をなす旨の意思表示を行った。

(2)Xによる解雇無効を理由とする賃金支払の請求につき、第1審(大阪地判平成7・6・28)および原審(大阪地判平成7・12・13)は、@XがY代表者の出勤命令に応じなかったことは業務上の指揮命令に違反したという懲戒事由に該当しない、AXが入社時に提出した履歴書には生年月日を偽って記載した経歴詐欺が認められるが、これは解雇後に判明した事実であって、当該懲戒処分時に懲戒事由とされていないから、これを理由として懲戒解雇することはできない、B無断欠勤の事実は認められず、正当な理由なくしばしば無断欠勤するとの懲戒事由は該当しない、Cその他の普通解雇事由にあたる事実はないので、平成5年8月31日付の解雇は無効であるとした。しかし、原審は同6年4月11日付の予備的解雇は、経歴詐称が「重要な経歴をいつわり、その他不正な手段により入社したとき」とする懲戒事由に該当し、懲戒権の濫用も認められないことから有効であるとした。
 この控訴審の判断に対して、Yは本件解雇時にYが認識していなかったことを理由に経歴詐称を懲戒事由とすることを認めなかった原審の判断は、懲戒権の行使に関する法律解釈を誤ったものであるとして上告した。

・判旨

上告棄却

「使用者は労働者に対して行う懲役は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲役の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲役の有効性を根拠付けることはできないものというべきである。これを本件についてみるに、原審の適法に確定したことやその際の応接態度等を理由としてされたものであって、本件懲戒解雇当時、Yにおいて、Xの年齢詐称の事実を認識していなかったというのであるから、右年齢詐称をもって本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることはできない。」

※ひとりごと

 まず、「予備的解雇」などという言葉及び考え方があるとは初めて知った。まずは、平成5年8月31日時点での解雇については、解雇無効ということであるが、次の平成6年4月11日付けの予備的解雇は、控訴審では有効とされたが、最高裁で棄却となった。ま、結論からすれば、解雇は無効であり、最初の解雇の時点で認識のなかった事由を後から出してもそれは無効だということである。経営者側で解雇する場合に、本当はいっぱい言いたいことがあるが、相手が逆上するかもしれないし、そこまでは言いたくない、といったことも多い。しかし、揉めてから後出しで事由を追加しても無効であるので、解雇すると決めた以上は、始めから全て言うしかない。(by Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

■変更解約告知(スカンジナビア航空事件、東京地裁、H7.4.13)

・事実の概要

(1)スウェーデンに本社を持つ外国株式会社であるY(債務者)は、他の外国2社とともに航空会社(以下、A社という)を設立しており、日本においては、A社の従業員の雇用はYとの雇用契約によっている。X(債務者)らはいずれもYに雇用されていた地上職従業員及びエア・ホステスである。

(2)A社は、航空部門の利益が赤字に転落したため、度重なる経営合理化を進める一方、日本支社の経費削減を目的として希望退職者募集を行い経費削減にも努力した。しかし、その効果は芳しくなかったため、日本支社の経費の大幅削減を目的として人件費等を見直す対策をとらざるを得なくなった、

(3)A社は再建策として、日本人全従業員に対して早期退職募集と再雇用の提案を行い、早期退職の募集にあたっては退職金の割増金支給を提示してその募集期限を発表した。そして、その後の団体交渉で、@年俸制の導入、A退職金制度の変更、労働時間の変更、C契約期間(1年間)の導入などを内容とする新雇用条件を提示した。これにより、全従業員140名のうち115名が早期退職に応じたが、Xらを含む25名は早期退職に応じず、再度の募集にも応じることなく本件仮処分(申し立ての趣旨及び当事者は後に変更)を申し立てた。その後A社は、25名のうちX1らに対して、新ポジション及び新賃金(年俸)を明示して早期退職と再雇用への応募を促したが、応募期限までに応募がなかった。A社はさらに応募を促したが、後に残るX2らを含む25名に解雇予告の意思表示をなした。X1ら9名とX2ら7名は、これらの解雇の効力を争い、従業員たる地位保全等を求めた。

・決定要旨

申立て却下

1 X1らに対する「解雇の意思表示は、要するに、雇用契約で特定された職種等の労働条件を変更するための解約、換言すれば新契約締結の申込みをともなった従来の雇用契約の解約であっていわゆる変更解約告知といわれるものである」。

2 「会社X1ら従業員との間の雇用契約においては、職務及び勤務場所が特定されており、また、賃金及び労働時間等が重要な雇用条件となっていたのであるから、本件合理化案の実施により各人の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の変更を行うためには、これらの点についてX1らの同意を得ることが必要であり、これが得られない以上、一方的にこれらを不利益に変更することはできない事情にあったというべきである。

 しかしながら、労働者の職務、勤務場所、賃金及び労働時間等の労働条件の変更が会社業務の運営にとって必要不可欠であり、その必要性が労働条件の変更によって労働者が受ける不利益を上回っていて、労働条件の変更を伴う新契約締結の申込みがそれに応じない場合の解雇を正当化するに足りるやむを得ないものと認められ、かつ、解雇を回避するための努力が十分に尽くされているときは、会社は新契約締結の申込みに応じない労働者を解雇することができるものと解するのが相当である。」

3 本件事実のもとでは、賃金、退職金、労働時間のいずれについても、変更に高度の必要性が認められ、X1らにかかる高度の必要性を上回る不利益があったとはいえず、また解雇を回避するための努力が十分に尽くされており、「よって、本件変更解約告知は有効であると解するのが相当であり、……〔X1ら〕に対する解雇は有効であるというべきである」。

※ひとりごと

 まずは本件を通して、「変更解約告知」という考え方を知ってもらいたい。変更解約告知とは、「労働条件を変更するために解雇すること」あるいは「解雇を通じて労働条件を変更すること」と言える。本件の場合は、解雇する合理性もあり、また代替案も提示した。にもかかわらず、十数名の者はそれらを無視するような対応であったので、やむを得ず解雇に踏み切った。もし、これが解雇権濫用となると、経営者にとって解雇は絶対に出来ないものであり、労働条件の変更の申し入れすらできないものとなってしまう。逆に言えば、解雇や労働条件の変更を申し入れる場合は、本件を参考にしてもらいたい。(by Hideyuki Iwase)

▲戻る

 

トップページ | サイトマップ | あすなろオンライン | お問合せ
会保険労務士法人 あすなろ事務所 名古屋オフィス
〒460-0022 名古屋市中区金山1-4-4 第9タツミビル2F
TEL:052-737-6321 / FAX:052-737-5626
社会保険労務士法人 あすなろ事務所 三河オフィス
あすなろ経営管理事務所 
〒444-0322 愛知県西尾市巨海町東脇10 
TEL : 0563-64-1022 / FAX : 0563-64-1023
URL : http://www.asunaro-as.net/
Copyright (c) Certified Social Labor Insurance Corporation Asunaro Office 2000- All rights reserved.