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賃金(給与、賞与、退職金)に関する判例をご紹介します。


賞与の在籍日支給における未払い賃金請求 退職金の減額
退職年金の減額  
      

 

■賞与の在籍日支給における未払い賃金請求(大和銀行事件、最高裁、S57.10.7)

・事実の概要

  Xは、昭和51年Y銀行に入社し、昭和54年5月31日退職した。Y銀行の改訂前就業規則32条は「賞与は決算期毎の業績により各決算期につき1回支給する」と定めていた。また、従来から年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍する者に対してのみ賞与が支給されるという慣行が存在し、昭和54年5月1日施行の改訂就業規則により明文化された。
  X退職後の同年6月15日及び12月10日に支給された賞与は、それぞれ前年の10月1日から同年3月31日までおよび同年4月1日から9月30日までに基づくものであったが、いずれもXには支給されなかった。そこで、Xが賞与の支払いを請求した。

・判旨

上告棄却

  Y銀行においては、本件就業規則32条の改訂前から年2回の決算期の中間時点を支給日と定めて当該支給日に在籍している者に対してのみ右決算期を対象とする賞与が支給されるという慣行が存在し、右規則32条の改訂は単にY銀行の従業員組合の要請によって右慣行を明文化したにとどまるものであって、その内容においても合理性を有するものであり、右事実関係のもとにおいては、Xは、Y銀行を退職したのちである昭和54年6月15日及び同年12月10日を支給日とする各賞与については受給権を有しないとした原審の判断は、結局正当として是認することができる。

※ひとりごと

  賞与は賃金の後払いではないが、また任意恩恵的な給付だから支払わなくてもよいという意味ではない。どういうことかと言えば、査定対象期間に在籍していることから本来的にはXにも賞与を支払うべきであるが、労使慣行や就業規則の規定で支給日在籍要件が明確になっているために支払わなくてもよいということだろう。昨今、某TV番組で60歳定年を迎えた後に再雇用された労働者が60歳前の期間について賞与を受給する権利があるようなことが放送されたようであり、当事務所へ同様な問合せが相次いでいる。定年の場合と中途退職の本件の場合とではまた違うのかもしれないが、いずれにせよ就業規則に「支給日現在に(正社員として)在籍している」等の規定が必要である。換言すれば、支給日在籍要件が不明確な場合は、労働者側に有利になるものと考えている。(by Hideyuki Iwase)

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■退職金の減額(三晃社事件、最高裁、S52.8.9)

・事実の概要

  X会社(原告、控訴人、被上告人)は、広告代理業等を営んでいる。Y(被告、被控訴人、上告人)は、昭和38年春頃にX社に入社し約10年間勤務し、昭和48年7月20日に退職したが、同年8月2日自己都合退職率乗率に基づき計算された退職金64万8000円を受領した。
  ところで、X社の就業規則には、勤続3年以上の社員が退職した時は退職金規則により退職金を支給する旨が規定され、退職金規則には、退職金は退職発令後本人より請求があった時から7日以内に支払うことが規定されていた。同規則の退職事由別支給乗率表によると、退職後同業他社へ転職の時は自己都合退職の2分の1の乗率で計算されることになっていた。また、Yは入社に先立ち退職後同業他社に服務し、あるいは自営する時は必ず事前にX社の承諾を得ることを誓約する誓約書を提出しており、また、退職金を受領する時にも今後同業他社に就職した場合は退職金規則に定めるところにより受領した退職金の半額である32万4000円をX社に返還することを約していた。
  しかし、Yは、同年7月20日頃同業他社からの入社の誘いを受けて、8月9日に正式入社した。X社は8月6日にそのことを知り、退職金規則及びXY間の約定により、支払済み退職金の半額にあたる32万4000円を不当利得として返還することをYに求めた。
  第1審は、XY間には退職後同業他社に就職する場合には自己都合退職金の半額が不支給となる旨の契約があったと認定し、この契約は間接的に労働者に競業避止義務を課したものであり、退職時に退職金の額が確定することは明らかであるので、競業避止義務に違反した場合には退職時に退職金の半額を没収するという損害賠償の予定を約したものと解され、かかる労働契約に関する賠償予定の約定は労働基準法16条に違反し無効であるとし、X社の請求を棄却した。
  第2審は、X社の退職金制度は全額使用者負担となっており、この方式の下では退職金支給に関して使用者側においてある程度裁量的に定めうるものと解され、法律の規定や公序良俗に反しない限り自己都合退職の場合でも退職事由によって算定基準に差異を設けることが許されると解し、本件退職金規則はまさしく退職金支給基準を定めたものであり、要件を充足する時は退職金がその支給割合に応じた数額しか発生しないことを意味するとした。このことは従業員に予め周知されているので、同業他社へ転職するか、他の企業で働くか、そのまま残るか、どのような選択をするかは従業員の意思に委ねられているし、支給基準に差異を設けたことに従業員の足止めを図ろうとする意図は看取できるが、直ちに実質的に損害賠償を定めたものとして労働基準法16条違反とはいえないし、この程度の減額支給が従業員に対する強い足止めになるとも考えられず民法90条に違反するとも断定できない。また、労働基準法24条にも反しないとして、X社の請求を認容し、Yに対して32万4000円の支払を命じた。これに対して、Yが上告した。  

・判旨

上告棄却

  X社が営業担当社員に対し退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業の自由等を不当に拘束するものとは認められず、したがって、X社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することにかんがみれば、合理性のない措置であるとすることはできない。すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の限度においてしか発生しないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法3条、16条、24条及び民法90条等の規定になんら違反するものではない。

※ひとりごと

  退職金は雇用の引止めとしての効果を狙って企業が支払うものであり、退職者が同業他社に行った場合を考えれば、一定の減額をしたいのは当然である。企業(by Hideyuki Iwase)

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■退職年金の減額(幸福銀行事件、大阪地裁、H10.4.13)

・事実の概要

  (1)Y銀行(被告)には昭和37年から退職一時金制度とは別に退職年金制度が存在し、退職金規定がその受給資格などについて定めていた。退職年金は無拠出制で、勤続満20年以上の退職者が満60歳に達したときに、本人の申出によりその翌月から終身にわたり毎月支給されることになっていた。
  当初は退職金規定どおりの金額が退職年金として支払われていたが、昭和52年8月以降は、低額であった公的年金を補う意味もあり、規定額以上の上積み支給がなされていた。上積み支給の金額についての明文はなく、退職時の職位、勤続年数に応じて決定されていたが、おおむね規定額の3倍程度の年金が各受給者に支給されていた。
  (2)年金の支給開始時には「年金通知書」と題する書面が交付されていた。表面には上積みされた支給額が記載され、年金は終身支給である旨が明記されていた。また裏面には「年金は経済情勢及び社会保障制度などに著しい変動、又は銀行の都合により之を改訂することがあります。」との不動文字が印刷されていた(訂正変更条項)。このような通知書は、少なくとも昭和50年頃以降は退職年金を受給するすべての退職者に交付されていた。
  (3)バブル崩壊後Y銀行の業績は急速に悪化、様々なリストラ策が講じられたがその後も収益は改善しなかった。他方で退職年金の支給額は平成7年度で年間約6億5000万円に達しており、今後もその金額が増大し経営環境を圧迫することは確実であった。
  そこでY銀行は、平成8年1月1日に、同年4月1日から退職金の支給額を規定どおりの金額にまで減額することを決定、同年2月1日付けでX(原告)らを含む退職年金受給者計578名にその旨を通知した。内566名は異議をとどめることなく確認書を返送したが、Xらの一部を含む5名の退職者は明確に拒絶の意思表示をした。
  (4)Xらは、退職年金の一方的な減額は許されないとして、規定額を超えるこれまでの上積支給額を基準に、未払額及び将来分の支払を求めた。

・判旨

請求棄却

  (@)Yでは退職年金のほかに十分な額の退職一時金が支給されていた。また終身支給であること、受給者死亡の場合配偶者に半額が支給されることなどからすれば「Yの退職年金は、賃金の後払い的性格は希薄であって、主として功労報償的性格の強いものである」。
  (A)XらとYとの間には、年金通知書交付時に退職年金を上積支給する旨の個別の合意が成立した。しかしXらは、訂正変額条項の存在を認識した上で年金の受給を開始している。つまり上記の合意においては、一定の場合にYが支給額を改定できることが当然の前提とされていた。そしてYの退職年金はもともと功労報償的性格が強いこと、上積支給部分は退職金規定上支払義務がなく恩恵給付的性格が強いことに鑑みれば、訂正変更条項は有効といえる。
  (B)もっとも、Yにおいては約20年近く上積支給が行われ、退職者の期待も大きかった。Yの都合で年金額を自由に改定できると解すべきではない。「退職年金の減額は、年金通知書に経済情勢及び社会保障制度などに著しい変動があった場合が例示されていることに鑑み、これらの事情又はこれに準ずるような一定の合理性及び必要性が認められる場合にのみ許されると解すべきであり、そのような合理性及び必要性がないにもかかわらず恣意的に行った減額は、権利の濫用として、無効となる」。
  (C)Yの経営はバブル崩壊後著しく悪化し、人員削減、店舗削減、役員報酬や賞与切り下げなどの対策を講じたにもかかわらず2年連続損失を計上せざるを得なかった。他方で退職年金は受給者の増加により年々支払い総額が急増し、経営を圧迫することが確実視された。このような事情を考慮するならば「Yによる本件減額措置には、一定の合理性及び必要性が認められ、また、退職年金の受給権者578名中566名が右減額措置に対し異議を述べていないことも考慮すると、右減額措置が権利の濫用に当たるとはいえない」。
  (D)また、XらとYとの間で退職年金を上積支給する旨の労使慣行においても、年金の支給開始後一定の場合にはYが支給額を改定し得ることが当然の前提とされていた。結局Yの減額措置は、労使慣行においてYに保留された権限を行使したものであり、その行使には一定の合理性及び必要性が認められるのであるから、労使慣行の不利益変更にも該当しない。

※ひとりごと

  任意恩恵的に上積支給をしてきても退職金規定になければ、ある程度は認められることいえるだろう。しかし、銀行にしてみればそもそもこのような訴えを起こされてしまったことに面白くない思いがあるのではないか。退職金に限ったことではないが、任意恩恵的に支払ったつもりでもそれを労使慣行と捕らえられ、従業員から提訴されるようなことがないようにしなければならない。任意恩恵的とはいえ、規定にないものは支払わない方が無難である。(by Hideyuki Iwase)

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