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労働契約に関する判例をご紹介します。


有期雇用契約と試用期間の違い 中途採用者の処遇
   
      

 

■有期雇用契約と試用期間の違い(滝澤学館事件、盛岡地裁、H13.2.2)

・事実の概要

 Yは、高校を設置している学校法人であり、受験予備校や専門学校も経営している。Xは、昭和63年3月、大学を卒業し教員免許を取得したが、同年4月から平成元年3月までシステムエンジニアとして企業に勤務し、同年4月から平成5年3月まで別の企業に営業職として勤務した。その後、Xは同年4月から平成6年3月まで、中学校において臨時採用職員(常勤講師)として勤務し、同年4月から平成7年3月まで、同中学校及び他の中学校において臨時採用職員(非常勤講師)として勤務した。
 Yは、平成8年度に国語科の専任教諭を2名採用することを予定し、平成7年10月に新聞紙上でその募集広告を行ったところ、Xを含む8名が応募したが、Xは書類選考により不合格となった。
 しかし、Yは本件高校において、国語科の教員に1名の欠員が発生したため、急遽勤務することが望めそうなXと常勤講師として平成7年12月1日から平成8年3月31日までの雇用期間で契約した(本件高校の教員で、雇用期間の定めがあるのはXのみ)。
 なお、Yの平成8年度の国語科専任教諭にかかる募集については、平成7年12月に1名が合格したが、残る1名と欠員の1名の計2名についてさらに採用の必要があったため、平成8年1月に追加の募集が行われ、2名の応募者があった。
 一方Xは、他校より常勤講師として勤務することに打診を受けていたことことから、本件高校のT教頭に対し、次年度の採用について専任教諭として勤務する希望があることを伝えた。そして、本件高校K課長と面談した結果、現職の者が専任教諭の試験を受けた前例がないと述べると共に、今後1年間の勤務状況を見て問題がなければ専任教諭とすることを伝えた。その上で、そうなった場合の雇用条件(労働時間、賃金)について合意した。なお、当時、追加募集の2名の合否は未だ決定していなかった。
 平成8年4月1日付で雇用契約を平成9年3月31日までとした雇用契約が締結され、他の専任教諭と変わらない業務を担当するようになった。平成8年10月頃、Yの理事長と面談した際にも、来年度は専任教諭となることを希望している旨を伝えた。Xは、平成9年1月から2月頃、他校から就職の誘いを受けたが、翌年度には本件高校の専任教諭として勤務できるものと考えていたため、これを断った。
 Yは、平成9年度の国語科教諭の採用について1名を合格させ、さらにもう1名をYが経営する受験予備校に勤務する教員を本件高校に異動させた。
 Xは2月25日、K課長からYは来年度のXとの契約を更新しない方針である旨を告げられたため、他からの誘いを断っていたこと等を述べて抗議したところ、Yが経営する専門学校で採用する可能性があることを話したが、Xはこれを断った。
 Xは、本件契約に雇用期間の定めが設けられた趣旨がXの適性を評価・判断するための期間を定めたものであるから、同契約は解約権留保付雇用契約であると見るべきであり、Yの行った解雇は合理的な理由がなく解約権を濫用したものとして無効であるから、Xは平成9年4月1日、本件高校の専任教諭たる地位を取得したというべきであるとして、地位確認と賃金を請求した。

・判旨

一部認容一部棄却

1 「上記認定事実によれば、XとY間の本件契約に際しては、未だYにおいて国語科の教員についての採用予定が充足されていない状態にあり、このような状況の中で、本件高校においても専任教諭として勤務することを希望していたXに対し、Yの教員の採用事務等の担当者であったK課長から、今後1年間の勤務状況を見て問題がなければ専任教諭とする旨の話があり、これを信頼したXは、他の学校からの就職の誘いも断り、平成8年4月から1年間、本件高校の常勤講師として、他の教員と変わらない職務を担当させられてきたこと等に鑑みれば、本件契約の期間は、その満了により雇用契約が当然に終了するとの趣旨のものではなく、Xの適性を評価、判断するための試用期間であったというべきである。そして、上記認定の各事実に照らせば、その法的性格は、解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。」

2 「解約権留保付雇用契約における解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであると解するのが相当である。」

3 「国語科教員の間では、社会生活上の実用性や生徒の就職試験への対応等に配慮して、書道Tの授業は、1年生について毛筆を行い、2年生については、硬筆及び漢字や語句の学習を行うことが了承されており、国語科の教科主任であって書道についても事実上主任としての役割をしていたS教諭から、このような実情がXにも伝えられたが、Xは、自らの大学における専攻が書道であったことから、S教諭に対し、2年生についても毛筆の授業を行いたいと申し出て、その了承を得、書道Tの授業の最初の5時間において、毛筆の授業を行い、その後は、他の国語科教員と同様に硬筆及び漢字の学習を中心とする授業を行っていたことが認められるのであるから、Xが行った書道の授業を行っていたことが認められるのであるから、Xが行った書道の授業の内容が他の教員に比して特別不適切なものであったということはできない。
 一般的にいっても生徒の成績評価は教員の裁量に任せられているうえ、生徒の成績の良し悪しの原因も様々であると考えられるのであって、赤点をつけた生徒の数の多いことが直ちに当該教員の指導能力が低いことを示すものと言えないことは明らかである。その上、Xが赤点を付けた生徒は概ね他の教科でも赤点を取る傾向があるほか、国語Tないし書道Tよりも赤点を取る生徒が多い科目であったこと、Xは、赤点を取った生徒について、補講等によって進級させるように努めていたこと等が認められるのであって、これらの点から見ても、Xが特別指導の熱意や技量を欠いていたということはできない。
 以上によれば、Yの主張する本件解約権行使の理由は、いずれも、客観的に合理的であるとはいい難く、解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当性を欠いているというべきである。
 したがって、本件解約権の行使は無効であると解するのが相当である。」

※ひとりごと

 試用期間とはいえ、14日を過ぎたら解雇予告手当が必要なため、2ヶ月から3ヶ月の有期の雇用契約を締結し、本採用しない場合は雇用期間満了としてお辞めいただくのはよくやる手である。しかし、その雇用期間が1年であり、実質的に試用期間という位置づけである以上、解雇するには合理的な理由が必要だったというわけか。
 有期期間の雇用期間満了も形式だけではなく、実態もそのようにしないと解雇権濫用となってしまう。労働基準法も改正になったことだし、有期の雇用契約についても契約時に契約更新の有無や判断の基準を明確にしておく必要がある。(by Hideyuki Iwase)

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■中途採用者の処遇(日新火災海上保険事件、東京高判、H12.4.9)

・事実の概要

 X(原告・控訴人)は、昭和56年(1981年)大学理工学部を卒業し、自動車製造会社に勤務したが、転職の機会をうかがっていたところ、Y(被告、被控訴人)が出していた求人広告をみて応募し、採用が内定した。
 Yは、中途採用者受け入れのための運用基準を策定し、それによると中途採用者の給与の格付けは「当該年齢の現実の適用考課の下限を勘案し、個別に決定する」とされていた。これは、中途採用者の初任給を「新卒同年次定期採用者」(Xと同じ年次で大学を卒業し、定期採用者としてYに入社した者)の一番下に各付することを意味した。しかし、その求人広告には「キャリアを活かした転職。業界経験、職種経験をフルに発揮して、もっと満足できる環境のなかで能力を磨きたい。そんな方には、きっと納得していただけるような待遇を用意してお待ちしております。」、「第二新卒としてやり直してみたい方。89、90年既卒者対象として、もう一度新卒と同様に就職の機会を持っていただく制度があります。もちろんハンディはなし。たとえば89年卒の方なら、89年に当社に入社した社員の現時点での給与と同額をお約束いたします。」などの記載がされていた。
 YはXの入社に際し「新卒同年次定期採用者」の下限に各付けした。入社後1年余りを過ぎた頃、初めてXはそのことを知り、上司に新卒同年次定期採用者の平均的各付けへの変更を求めたが、Yはこれに応じなかった。そこでXは、求人広告に新卒同年次定期採用者の「平均的給与との差額の支払い」とこれにより被った「精神的損害の賠償」を請求して訴えを提起した。第1審(東京地判、H11.1.22)はXの請求を棄却した。

・判旨

一部認容一部棄却

1 「求人広告は、それをもって個別的な雇用契約の申し込みの意思表示と見ることはできないものである上、その記載自体から89年及び90年既卒者について同年次新卒入社者と同額の給与額を支給する旨を表示したもので、それ以前の既卒者についてこれと同様の言及をするものではないことを十分に読み取ることができるものと言うべきであって、その他には『納得いただける待遇』との表現があるのみであるから、その記載をもって本件雇用契約がXの主張の内容をもって成立したことを根拠付けるものとすることはできない。」

2 「Yの人事担当責任者が面接及び会社説明会においてXに対して説明した内容は、これを厳密に明らかにすることはできないけれども、少なくとも、給与条件につき新卒採用者と差別をしない(ハンディはない)との趣旨の抽象的な説明をしたものと認めるべきであるが、しかし、新卒同年次定期採用者の平均給与を支給するとか、それの平均的各付による給与を支給するなど、Xの給与の具体的な額又は各付を確定するに足りる明確な意思表示があったものと認めることはできない」。「そうとすれば、第1次面接及び会社説明会におけるYの人事担当責任者の説明によって、YとXとの間に、本件雇用契約上、新卒同年次定期採用者の平均的各付による給与を支給する旨の合意が成立したものということはできない。」

3 「Yは、計画的中途採用を推進するに当たり、内部的には運用基準により中途採用者の初任給を新卒同年次定期採用者の現実の各付のうち下限の各付により定めることに決定していたのにかかわらず、計画的中途採用による有為の人材の獲得のため、Xら応募者に対してそのことを明示せず、就職情報誌での求人広告並びに面接及び社内説明会における説明において、給与条件につき新卒同年次定期採用者と差別しないとの趣旨の、応募者をしてその平均的給与と同等の給与待遇を受けることができるものと信じさせかねない説明をし、そのためXは、そのような給与待遇を受けるものと信じてYに入社したものであり、そして、入社後1年余を経た後にその給与が新卒同年次定期採用者の下限に位置づけられていることを知って精神的な衝撃を受けたものと認められる」。「かかるYの求人に当たっての説明は、労働基準法15条1項に規定するところに違反するものというべきであり、そして、雇用契約締結に至る過程における信義誠実の原則に反するものであって、これに基づいて精神的損害を被るに至った者に対する不法行為を構成するものと評価すべきである。」

※ひとりごと

求人広告に記載されていた条件と実際の採用条件が違っている場合であっても、雇用契約はその実際の条件で締結したものであるから、それはそれで有効ということか。言うなれば、求人広告の条件は「労働契約の申し込みの誘引」であるだけで、契約内容とはならない。そのことから考えて、新卒同年次定期採用者の「平均的給与との差額の支払い」を退けたのだろう。まさに、雇用契約書の重要性を再認識させられる内容である。もし、雇用契約書がなく、口頭による明示であったり、あるいは書面であっても雇用条件通知書であったならば、このような判決だったかどうか、考えてしまう。
しかし、「精神的損害の賠償」、つまり慰謝料のことであるが、これは労働基準法15条1項に基づき、認容されている。

労働基準法15条1項:
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

厚生労働省令で定める方法とは「書面の交付」のことであり、厚生労働省令で定める事項とは以下のことを指している。
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
(3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
(4)退職に関する事項(退職の事由及び手続、解雇の事由を含む)

 労働基準法15条1項違反となっているものの明確な違反は無く、信義誠実に反している、ということなのだろう。ちなみに、労働基準法15条1項違反は、30万円以下の罰金となっているが、労働契約そのものは有効に成立する。平均的給与との差額の支払いは不要であるが慰謝料は必要だという今回の判決は、いかに雇用契約の締結を過失無く行うことの重要さを示している。
雇用契約書をきちんと作っていますか?口頭や雇用条件通知書では問題が起こってしまうと対処できないことを認識下さい。(by Hideyuki Iwase)

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